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松山地方裁判所 昭和55年(ワ)186号 判決 1980年11月17日

原告 堀川義起

被告 岡本要

主文

一  本件訴を却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、愛媛県伊予市に対し金一〇九万円及びこれに対する昭和五五年五月一〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  右第1項につき、仮執行宣言。

二  本案前の申立て

主文第一、二項と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、愛媛県伊予市(以下「伊予市」という。)の住民である。

被告は、昭和五〇年二月三日から二期引き続いて伊予市の市長であり、同市が経営する水道事業の管理者である。

2  被告は、右水道事業管理者として、白石設計有限会社(以下「白石設計」という。)との間に、昭和五三年四月一四日、伊予市上水道第五次拡張工事の監理を、代金一〇九万円で委託する契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

3  しかし、本件契約の締結は、次の理由により違法である。

すなわち、水道法一二条によれば、水道事業者は、水道布設工事を自ら施行し、又は他人に施行させる場合においては、その職員を指名し、又は第三者に委嘱して、その工事の施行に関する技術上の監督業務を行なわせなければならないこととなつており、また、他方自治法二三四条の二によれば、普通地方公共団体が工事若しくは製造その他についての請負契約又は物件の買入れその他の契約を締結した場合には、当該普通地方公共団体の職員は、政令の定めるところにより、契約の適正な履行を確保するため又はその受ける給付の完了の確認をするため、必要な監督又は検査をしなければならないことになつている。もつとも、地方自治法施行令一六七条の一五第四項によれば、特に専門的な知識又は技能を必要とすることその他の理由により当該地方公共団体の職員によつて監督又は検査を行うことが困難であり、又は適当でないと認められるときは、当該地方公共団体の職員以外の者に委託して、当該監督又は検査を行わせることができることとなつている。ところで、本件契約締結当時、伊予市には、上水道拡張工事の監督又は検査を行うことのできる有資格技術職員(一級建築士三名、土木測量士二名、管工事施工管理技士三名)がおり、これらの職員で充分右工事の監督・検査を行うことができた。

したがつて、本件契約を締結する必要は全くなかつたものであり、本件契約の締結は、違法である。

4  被告は、本件契約の締結が前記のように違法であることを知つていたものであり、仮に知らなかつたとしても、知らなかつたことについて重大な過失がある。

5  本件契約に基づき、伊予市は、昭和五四年三月三一日、白石設計に対し、前記代金一〇九万円を支払つた。

6  そこで、原告は、昭和五五年三月二二日、伊予市監査委員に対し、監査を求め、被告の前記行為によつて伊予市の被つた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求したが、その請求は、同年四月一二日却下された。

よつて、原告は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、伊予市に代位して、被告に対し、損害金一〇九万円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五五年五月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二1  本案前の答弁

地方自治法二四二条二項によれば、監査請求は、その対象となる行為のあつた日又は終つた日から一年を経過したときは、これをすることができないものとされている。ところで、本件契約につき、監査請求ができるのは、遅くとも、本件契約上の白石設計の履行行為の完了により、伊予市の本件契約代金支払債務が確定し、代金一〇九万円の支払がなされた昭和五三年一二月二八日から一年後の昭和五四年一二月二八日までである。しかるに、原告が監査請求を行つたのは、昭和五五年三月二二日である。以上のとおり、本件訴えは、適法な監査請求を前置しないで提起されたものであるから、不適法である。

2  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1及び2の各事実を認める。

(二) 同3の事実のうち、本件契約締結当時伊予市に上水道拡張工事の監督又は検査を行うことのできる有資格技術職員がおり、これらの職員で充分右工事の監督・検査を行うことができたことは、否認する。

(三) 同4の事実を否認する。

(四) 同5の事実は、代金支払日の点を除いて、認める。代金支払日は、昭和五三年一二月二八日である。

(五) 同6の事実を認める。

三  本案前の答弁に対する原告の主張

1  本件契約上の白石設計の履行行為が完了したのは、昭和五四年四月二二日である。すなわち、伊予市上水道第五次拡張工事では、昭和五三年一二月から試送水が行われたところ、全自動操作式揚水ポンプが予定どおり作動しなかつた。これは、揚水ポンプにフード弁が取り付けられていないことによるものであることが、昭和五四年二月になつて判明し、二号機ポンプには同年三月三日、一号機ポンプには同年四月二二日に右弁がそれぞれ取り付けられて、揚水ポンプが完全に作動可能となつた。したがつて、本件契約上の白石設計の履行行為も、昭和五四年四月二二日まで完了していなかつたものというべきであるから、本件契約については、昭和五四年四月二二日から一年後の昭和五五年四月二二日まで監査請求できるものとすべきである。

2  仮に、右主張が容れられないとしても、伊予市上水道第五次拡張工事が完成し、各種の精算が終つたのは、昭和五四年三月三一日であるから、この日から一年後の昭和五五年三月三一日まで監査請求ができるものとすべきである。

3  仮に、右の主張も容れられず、原告の監査請求が地方自治法二四二条二項所定の期間経過後になされたものであるとしても、右期間を徒過したことについて、原告には、正当な理由がある。すなわち、本件契約については、仲田勝輔が昭和五四年一二月二二日監査請求をし、昭和五五年二月二〇日、その請求を棄却されたが、この棄却処分の通知書の理由の中に、本件契約締結当時伊予市水道課には上水道拡張工事の監督・検査を行うことのできる有資格者は一名しかいなかつたので、本件契約を締結するのもやむを得なかつた旨の記載があつた。ところが、その後、伊予市水道課には本件契約締結当時他に一名の有資格者が勤務していたことが分り、右記載は虚偽であることが明らかになつたので、直ちに、原告は、監査請求をしたものである。以上の次第であるから、期間経過後に監査請求したことについて、原告には、正当な理由がある。

第三証拠<省略>

理由

一  まず、監査請求前置の点について判断する。

1  地方自治法二四二条二項によれば、監査請求は、当該行為のあつた日又は終つた日から一年を経過したときは、これをすることができないものとされている。

証人向井淳の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第二号証によれば、被告は、伊予市の市長で、同市が経営する水道事業の管理者として、白石設計との間に、昭和五三年四月一四日、本件契約を締結したことが認められる。

そうすると、本件契約の締結が違法であるとして、伊予市の住民が伊予市監査委員に対し監査請求ができるのは、本件契約が締結された昭和五三年四月一四日から一年後の昭和五四年四月一四日までであるといわなければならない。しかるに、本件契約の締結が違法であつたことによつて伊予市の被つた損害を補填するために必要な措置を講ずべきことを請求して、原告が伊予市監査委員に対し監査請求をしたのが昭和五五年三月二二日であることは、成立に争いのない甲第二号証(原告の監査請求書)及び原告本人尋問の結果により明らかである。

原告も被告も、地方自治法二四二条二項にいう、当該行為の「終つた日」とは、当該行為又はその効力が相当期間継続性を有するものについて、当該行為又はその効力が終了した日を指すものと解し、本件契約について、いつその効力が終了したかを問題にするが、当該行為の「あつた日」が一時的行為のあつた日を意味するのに対し、当該行為の「終つた日」とは、その文理上、継続的行為について、その行為が終つた日を意味するものと解される。したがつて、契約締結行為に違法があることを理由とする監査請求は、契約の締結された日から一年内にしなければならないものというべきである。(なお、原告において、本件契約に基づく代金の支払等の各履行行為又は代金支払のための公金の支出行為に違法な点があるというのであれば、それぞれの行為を対象に当該各行為のあつた日又は終つた日から一年内に監査請求をすべきであつた。)

以上によれば、原告の監査請求は、地方自治法二四二条二項所定の期間経過後になされたものといわざるを得ない。

2  原告は、監査請求期間の徒過について、同条項但書の正当な理由があると主張するが、原告の主張する事由がそのとおりあつたとしても、それが右但書の正当な理由に当たるものと考えられない。

二  そうすると、本件訴えは、適法な監査請求を前置しないで提起されたものであつて、不適法であるから、これを却下し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊貢 岩谷憲一 松原正明)

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